東大阪市内のとある教習所の廊下。ある大学生が、周囲の合コン的ノリに到底ついていけず、全く無言の教習所の日々。いつものように、休憩時間にタバコを吸っていると、前から気になっていたオジサンが5mほど離れて外を眺めていた。
無性に興味がわいてくるオジサンなんだが、間違いなくこっちから声をかけることははばかれる。というよりも丁重にお断りさせてもらうその容姿。
それでもチラチラと横目でヲチしていると、な、なんとオジサンがスタスタとこっちに向かってくる。堪忍して。
「兄ちゃん。一人か?」
「はい」
「そうか。タバコすうか?」
「ええ、いただきます」
「せやけど、思えへんか?アイツらホンマ騒がしいのう」
と、2,3滴お漏らししかけるデンジャラスフェイス&ボイスで歓声に包まれている方向をさす。そこでは、同世代っぽい男女の集団が楽しそうに井戸端会議を開催していた。
「そうですね。ホント、何が目的で来ているのか?って感じですね」
と、奇跡的にも一致した苦情に感謝しながら、チラっと左手を確認する。疑惑が確信へと変わった瞬間。
「せやろ、兄ちゃんもうっとしいとおもとったんやな。やっぱりなぁ。あれやからワシはセイガクがすかんのや。ホンマ、めっちゃむかつくで。」
(心の中でセイガクって言葉は久ぶりに聞いたと感慨無量)
カップヌードルタイムぐらいその話で盛り上がった(どうやら免トリになられたらしい)あと、心臓が飛び出る質問をあびせられる。
「ところで、兄ちゃんは何をしてるんや?」
コンマ何秒間だけ気絶。何とか正気をとりもどしつつ、
「…、あっ、ああぁ定職もつかずアルバイトばかりしています。」
ファイナルアンサーを心中で自画自賛&拍手喝采。安堵もつかの間、世の中の厳しさを味わえる質問がさらに飛んでくる。
「バイトはなんや?」
浪人時代のアルバイト経験のなかからオジサンにマッチしそうなバイトを瞬時にアウトプットして、
「天王寺や西成で朝から立って、適当なトラックに乗って土方とかです(一応"とか"を強調しておく)。」
2杯目のカップヌードルができる時間ぐらいバイト話で盛り上がり、そろそろ休憩も終わりかと目論んでいたら、クリスチャンでもないのに最後の試練を与えられる。
「ところで、ワシな、こんな仕事をしとるんや」
と、なぜか2枚の名刺を渡してくる。一瞥して表と裏とわかる名刺。一枚は会社名から察するに建設関連経営。もう一枚は、もうここまできたら腹をくくっていたが、直視して二度目の瞬間気絶。菱形で有名な日本一の大企業、もとい、道を極めた方々のお集まり。
「でな、ちょっとしゃべっただけやけど、気に入ったわ。見た目のワリには落ちついとるしな。どや、よかったら仕事せえへんか?」
「あのぉ、どっちの仕事ですか?」と
「あのぉ、実はセイガクなんですけど」を
免許が永久に取れなくなっても、口にしてはなるまいと誓いながら
「ありがとうございます。初対面でしかもこんな若輩に目をかけていただいて。ただ今のバイト生活が気楽で気に入ってますので、もう少し世間にスネをかじらせていただこうと思います。」
こんな慇懃な物言いができたのかと新たな発見に驚愕。
「そうか。まっ、コレも縁やさかいな。ホンマ困ったらいつでもそこへ連絡してこいや。な。」
と、深作欣二監督の映画にでてくるようなセリフをいただき、「ありがとうございます」と頭を垂れた。
と、こんな十年ちょっと前の記憶を、読書中の「ホームレス入門」が蘇らせた。今、自分は、なんでこんなことを思い出したのか?と訝るような顔をしてブログを書いている。
あのオジサンは今何をしているのだろうか?
:::追伸:::
ちなみに後日談として、この数ヶ月後、「本当にひょんなコトでオジサンにお世話になった」出来事があった。万が一、ご興味を持っていただいた方はリクエストしていただければ多幸。