
週間マガジンに掲載されていた『ラブレター』。二週にまたがる読み切り。後編を読み終えたとき、ページにはいくつも滲みができていた。止まらなかった。
あらためて慮る。特攻隊の人たちはどういう気持ちで飛行機に乗ったのだろう。
「大丈夫….僕は笑って出撃できる だって僕は死ぬために行くんじゃない… 大切なものを….. 決して失いたくない女性を….. 守るために行くんだから」
国を守る。しかしそれ以上に大切な何かを守る勇気。それらが支えだったのだろうか。片道切符を持った若者たちは生きながらにして神様である。だからその軍服に触ることすら許されないという。そんな人たちが最後の最後まで何を見て、何を想って、何を叫んで特攻したのか。何を私たちに伝えようとしたのか。問いにすらならない呼びかけが、私の心のなかで循環する。
主人公が婚約者に贈った最後の遺書(=ラブレター)。
智恵子へ
二人で力を合わせて努めてきたが…..終に結ばずに終わった。
希望を持ちながらも心の一隅であんなにも恐れていた
時期を失するということが実現してしまったのである。
楽しみの日を胸に池袋の駅で別れたが
情況は急転した。
そして今
晴れの出撃の日を迎えたのである。
便りを書きたい書くことはうんとある。
そのどれもが今迄のあなたの厚情に御礼を言う言葉以外の何者でもないことを知る。
月並みの御礼の言葉では済み切れぬけれど…..
「ありがとうございました」と最後に心の底から言っておきます。
今は過去に於ける あなたとの長い交際のあとをたどりたくない。問題は…今後にあるのだから。
婚約をしてあった男性として..散ってゆく男子として女性であるあなたに少し言って征きたい。
…..あなたの幸せを希う意外に何物もないー。
だからこそ過去の小義に拘る勿れ…..。
あなたは過去に生きるのではない。勇気をもって過去を忘れ将来に新生活を見出すこと。
あなたの今後の…..一時一時の現実の中に生きるのだ。
穴澤は…..現実の世界にはもう存在しないのだから…..
当地は既に桜も散り果てた。僕の大好きな若葉の候がここへは直に訪れることだろう。
今更 何を言うかと自分でも考えるが…..
ちょっぴり欲を言ってみたい。
智恵子
会いたい…..話したい…..無性に…..
今後は明るく朗らかに
自分も負けずに… …朗らかに笑って征く
もうすぐまた新しい年を迎える。